不等号

新宿朝四時。始発もないくせに嘘をつき、一人飲み会の席をたつ。宙に浮いたあの30分が許せなくなった。外は雨上がり、コンクリートから立ち上る湿気が肌に張り付く。途方もなく歩く。このまま千葉まで歩いて帰ろうかなと思い明日のことを考えてすぐやめる。まただ。どうせ明日なんて何もないくせに。何も考えず歩いている。この歩いてる時間に、誰かは何かを生み出し、誰かは無邪気に笑い、誰かは息を引き取っていく。僕は勢いよく腕を振った。それくらいしかできない。遠くで女の人が叫んでる。泣いている。ごめんなさい。やめて。おねがい。声のありかを探すため顔を動かさず目だけ左右する。疲労感にかまけて臆病を隠す。シャッターの閉まったビル、誰もいない公園。煌々とひかる自動販売機。うす汚いラブホテルの4階の窓が少し開いている。なんだと舌打ちをして、また地面を眺める。ガードレールに骨だけのビニール傘がしなだれかかっている。急に40歳の自分を想像して少し早足になった。後ろの上空で、大きく窓が開いた音がした。ほどけた靴ひもをそのままに大通りに向かって、大手を振った。そいつの人生だ。血まみれでも青あざでもエクスタシーでもそいつの中に理由がある。俺はここで何を思う。ここにいる理由はあるのか。ふと中学の時の友人の自慢をする奴のことが頭に浮かんだ。というか浮かべた。本当に自分が情けなくなった。