ナン男

gyoumuyou2006-10-09

朝、御茶ノ水の駅で降り、僕は野晒しになっている自転車にまたがって学校に向かおうとすると、橋の向こうから聖者がやってきた。

50メートル先にいるにもかかわらず、そこからもう出で立ちからして匂いがしそうなその男。身なりも体も黒い。

がらがらと空き缶の山でも担いでくれば、朝の出勤かと思えるがどうやらちがう。肩には青いデニムの大きなかばん。自由を象徴するような黒で燻されていた。

聖者はなにかぶつぶつとしゃべりながら橋を渡る。どんどん距離が縮まっていく。何をしゃべっているかとても気になるので漕ぐスピードを緩めた。男は特有の攻撃的な目を擁しておらず、にこやかに歩いていた。

そして、二人の距離わずか5メートル。もうそこから何も見出せないだろうとペダルに体重をかけようとしたとき、聖者はかばんの中に手を突っ込んだ。うれしいアクション。でも正直、少し怖かった。

当然正視はできずにくうを見ているていで、彼のかばんをのぞきこんだ。

そこにはナンが入っていた。
あふれんばかりのナンが入っていた。ちょっと本当に意味がわからなかった。しっかりと焼いていて、油でてかてかと光っている。

彼は、ひとつ取り出して大きな二つの手で引き裂き、おいしそうにほおばっていた。

撮影だと信じたい。